病気や高齢化などで歩くことが難しくなった時、人では車椅子を活用することがありますよね。
わんちゃんでも同じく、足が上手に動かなくなって歩けない時に、犬用車椅子を購入される飼い主さんもいます。
しかし、人が車椅子を使うのに比べ、動物病院でもご家庭でも、車椅子の選択肢がなかなか出てこないのが獣医療の現状です。
「車椅子って高そうだし、どこで買えばいいのか知らない…」
「車椅子を使い始めるタイミングがよくわからない…」
「そもそも、車椅子をうちの愛犬が使うメリットってあるの?」
そんな疑問を抱えている飼い主さんに向けて、今は必要ないという子も含め、いざという時に知っておくと便利な犬用車椅子に関する情報をお伝えします!
ー今回の目次ー
1.なぜ犬用車椅子はなかなか広まらないのか
2.犬用車椅子にはどんなものがあるの?
3.犬用車椅子って実際にどんな時に使うの?
4.変性性脊髄症や後肢麻痺で車椅子を使うメリット
5.犬用車椅子を老犬の暮らしに導入するメリット
6.犬用車椅子で飼い主さんの心もハッピーに
なぜ犬用車椅子はなかなか広まらないのか
先日動物看護学会に参加したとお伝えしましたが、そこでブースを展開していたメーカーさんとこんな話をしました。
「犬用車椅子を生活に導入するのって、今の段階では飼い主さんたちはハードルが高いと思われてますよね。」
看護や介護の話をする時に、動物病院でもしばしば「車椅子ってどう?」という話はしたことがありますが、なかなか飼い主さんとわんちゃんの生活に取り入れるまでにはいかないことがほとんどでした。
通常のハーネスや首輪、リードなど、普段使いのものを購入することに比べると、数万円~超軽量の高いもので20万円オーバーなど、費用がネックなことも一因ではあるでしょう。
その他にも、
● 車椅子について検討していたら愛犬が完全に寝たきりになってしまった
● 自作して使わせたが愛犬が慣れなかった
● どんな車椅子が愛犬に合うのか選びきれず断念した
など、犬用車椅子を使うタイミングがなくなったと思われたり、メリットを感じられなかったという声もよく聞きます。
犬用車椅子にはどんなものがあるの?
犬用車椅子と一口で言っても、その形や使い方はさまざまです。
車輪が2輪だけのものや4輪すべてそろっているもの、既製品やオーダーメイド対応のものまであります。
最近は犬用車椅子を作ってくれる工房やメーカーが増え、どんな部分に注目して選べばいいのかわからないこともあるかと思います。
まず第1に、個人的な思いではありますが、犬用車椅子はフルオーダーメイドか、部分的な調節を行ってくれるものをおすすめします。
わんちゃんにとっては最初は慣れない器具ですから、少しでも違和感なく使ってもらいたいと思えば、車椅子の素材が体に沿うかどうかを確認しつつ、負担にならないものを選ばなければいけません。
ここで「なんか重いし歩きにくいし体に当たって痛い!」とわんちゃんが感じてしまうと、なかなか車椅子に慣れてもらえず、「うちの子車椅子は苦手みたい…」と誤解してしまう原因になります。
第2に、後ろ足だけが弱っていて歩きにくいのであれば、2輪タイプの軽さを追求したものが良いでしょう。
4輪タイプを使うのであれば、前足の力も弱くなっていて、自分ひとりではなかなか前に進めない子におすすめです。
そして、アニマルオルソジャパンのように、2輪→4輪→介助カート(歩けなくなった子でもお外へ)へと、1つの車椅子をわんちゃんの状態に合わせて加工してくれるメーカーもあります。
(※こちらの会社のホームページは現在メンテナンス中のようなのでFacebookページを紹介しておきます。)
少なくとも安いと言えるお買い物ではないため、1つの犬用車椅子を長く使えるとより良いですね。
【小型犬用2輪カート】
【4輪カート】
動画を見てもらうとわかる通り、足が完全に麻痺しているなど動かすことができない場合は、接地すると足先が引きずられてボロボロになってしまいます。
このように足をあげて装着できるものを選ぶか、別途足の保護靴を足してあげてください。
【完全に歩けない子でもこんな介護カートが!】
犬用車椅子って実際にどんな時に使うの?
このような犬用車椅子を検討するケースには、
● 高齢犬の筋力低下
● 病気や事故による断脚(2肢以上で歩行が困難な時)
● 変性性脊髄症(DM)や椎間板ヘルニアなどの神経疾患
などが考えられます。
犬用車椅子を活用する目的は大きく分けて2つで、
1.リハビリテーションなどのために一時的に利用する
2.QOL(生活の質)を向上させる(維持する)ために利用する
のどちらかです。
多くの飼い主さんが犬用車椅子の購入を検討するのは、【2】を目的にして行われることがほとんどです。
「お散歩を楽しみの一環として行い続けたい」
「今残っている体の機能を維持して寝たきりにならないためにも、歩くことを諦めさせたくない」
そんな状況が多いはずです。
わんちゃんの場合、四肢の1肢を断脚しても、多くのケースでその子なりに上手に歩きます。
その応用力は人もびっくりで、3本足でも軽々と日常生活を行っているのを見ると、「すごいなあ」と素直に感心してしまうほど。
しかし、交通事故などで両後肢の断脚を行ったり、バランスが取れずにお散歩を長く楽しめないなら、車椅子を検討するタイミングもあるかもしれません。
また、最も車椅子を活用することでQOL(生活の質)を上げられる可能性がある病気と言えば、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークに多い「変性性脊髄症」があげられます。
変性性脊髄症や後肢麻痺で車椅子を使うメリット
変性性脊髄症(DM)と聞いても、いったいどんな病気?と思われる飼い主さんの方が多いことでしょう。
この病気は進行性で明確な治療法がなく、脊髄がゆっくりと侵されていき、最初は後ろ足を擦る程度だった症状が2~3年かけて、足の麻痺のみならず呼吸機能まで奪い命を脅かします。
理学療法を取り入れることによって筋肉が失われていくスピードを緩めたり、神経の変性を遅らせることが期待されていますが、足の麻痺が出た子では介助ハーネスだけではなかなか愛犬の歩行がサポートしづらいため、犬用車椅子がよく活用されています。
この病気では適度な理学療法を行うことで、行っていなかったグループよりも起立可能期間が長くなったという研究データがあります。
また、年単位でゆっくりと進行するため、亡くなるまでの経過が長いのも特徴です。
そのため、いかにわんちゃんが自分で歩くことを楽しみ続けてもらうかがとても重要な病気なのです。
他にも、椎間板ヘルニアや交通事故によって両後ろ足が麻痺し、足を引きずってしまって膝やすね、太ももなどが広範囲に傷つくために外出が楽しめないと諦めているご家族にも犬用車椅子はおすすめです。
介助ハーネスではわんちゃんの行きたい方向をしっかり見極めて体をサポートしなければならず、持ち方によってはわんちゃんの体が前方もしくは後方に吊り上がり気味になって体に負担をかけてしまうことがあります。
車椅子であれば、
「自分が行きたい方向に気ままに行ける」
「以前と同じように4本足で歩いているという感覚を持てる」
というメリットがあるため、わんちゃんの様子がハツラツとした!と喜ぶ飼い主さんが多い印象です。
犬用車椅子を老犬の暮らしに導入するメリット
老犬の場合で犬用車椅子を導入するメリットには、愛犬が歩く楽しみを見つける他にも、
● 食事や排泄の介助を楽にする
● 寝たきりの子には乗るだけでストレッチ効果がある
● 老犬の気分転換がしやすくなる
といったものがあります。
例えばこんな形で使っている飼い主さんもいます。
足腰の筋力が低下して自分で立てなくても、体をしっかり支えてくれる犬用車椅子を使うことで、「横向きで寝続ける」以外の姿勢を長くとることができます。
4本足で立つ姿勢をとることで、普段横向きにしか維持できずに硬くこわばりがちな背中やお腹を正しい位置でまっすぐ伸ばせるため、わんちゃん自身の快適さが増したり、寝たきりの時に発生しやすい体の痛みや柔軟性の低下を予防することにつながるのです。
また、ごはんをあげる時には誤嚥を防ぐため、飼い主さんが「よっこらしょ」と老犬の体を起こしながらあげる必要がありますが、なかなか腰が辛くなるケースも多いはず。
そんな時に犬用車椅子があると、愛犬の体重を持ち上げて支える部分を担わなくても良く、飼い主さんの体の負担が減り、ごはんをあげることにだけ集中できます。
きちんと体にフィットした車椅子なら、居心地が良くてそのまま眠ってしまうこともあるので、「体を起こしたい!」と鳴き続ける時間も減るかもしれません。
犬用車椅子で飼い主さんの心もハッピーに
愛犬の足腰が病気や老化などで弱まると、元気な姿を思い出してそのギャップに辛くなる飼い主さんもいるでしょう。
けれど、そんな時こそ犬用車椅子を検討してみてほしいなと思います。
足の機能は、使わなければその分歩けなくなるまでのスピードが速まってしまいます。
確かに安いお買い物ではないかもしれませんが、足がもつれたりよろめき始めた頃から少しずつ犬用車椅子に慣れておくと、本当に歩けなくなった時にこそ、「歩く楽しみや犬としての本能的な生きがい」を愛犬にもたらし続けてくれるでしょう。
今、犬用車椅子の形やメーカーの選択肢が豊富になってきたからこそ、興味がある方はメーカーさんまで、気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか?